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仙台地方裁判所 昭和48年(レ)34号 判決

控訴人

成沢しのぶ

右訴訟代理人

高橋治

被控訴人

南郷町農業協同組合

右代表者

駒口盛

右訴訟代理人

稲村良平

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金一二万二四一〇円を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一〈証拠〉を総合すると次の事実を認めることができる。

控訴人の所属する南郷町中二郷一八農家組合においては昭和四六年度産米の一日の検査数量は平日は八〇俵、土曜日は三〇俵とされており、控訴人は同年一一月一七日に受検査組合長である狩野一男に対し玄米叺入り六〇キロ四〇俵の供出(検査)の申込をなし、翌一八日の検査割当日に被控訴人の二郷倉庫に米穀(その種類、数量は後に検討する)を搬入し、農産物検査官の検査をうけたこと。

当日控訴人の代理人である養子成沢文志はその産米を倉庫に搬入した後直ちにその窓口受付事務を担当していた被控訴人の臨時職員保科美佐子に対し米穀の種類、数量等を申告し、同人はこれを六枚の複写式伝票に記載して受付け、その後右伝票の一部が検査申込伝票として検査官の手に渡り、検査終了後に等級等が記載されて、さらにこれが倉庫係高木富士男(被控訴人の補助職員)に渡り、同人において伝票と現品とを照合してこれを保管したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によると控訴人が米穀を搬入して受付係保料に申告をした際右保料がこれを六枚の複写式伝票に記載する事務は、その一面において農産物検査官に対する検査申込の受付という性格をもつと同時に他面、農協に対し政府米売渡を前提とする米穀の保管委託の申込の受付としての性格をも併せ有するものと解すべきであるから、右受付の事務が検査官の補助事務にすぎず、農協の所管外であるというが如き主張は許されず、いやしくも控訴人がその主張するような米穀を当日二郷倉庫に搬入したとするならば、伝票の数量表示不足によつて蒙つた控訴人の損害は、米穀の前記保管委託契約の債務不履行によるものというほかなく、被控訴人としては右損害の発生が自己またはその使用人の責に帰すべからざる事由による旨の主張、立証をしない限り、控訴人に対し損害賠償の責を免れることはできない。

問題は控訴人が現実にその主張するような米穀を倉庫に搬入したかどうかである。以下この点について検討する。

二①〈証拠〉には控訴人の昭和四六年度供出米は六〇キロ叺入二〇俵と三〇キロ紙袋入り三〇袋と記載され、米の包装の点を除けば控訴人の主張する五〇俵とその個数において一致すること。

②〈証拠〉を総合すると一一月一八日に控訴人方で二郷倉庫に搬入した供出米は全部六〇キロ叺入りのもので、三〇キロ紙袋入りのものは含まれていなかつたこと。

③〈証拠〉によると、控訴人が供米を終了した一一月一八日から約三週間後に当る昭和四六年一二月一一日に控訴人は売渡可能数量を六〇キロ入り五〇俵に減額する旨の減額申請書を南郷町長に提出したこと。

④〈証拠〉の随時監査報告書9の末尾但書に、昭和四七年一月二六日控訴人が南郷町役場に出頭して七四俵の減額申請をなし、結局売渡可能数量を三五俵に補正した旨の記載があるが、右記載が〈証拠〉に照らして虚偽と認められること。

⑤〈証拠〉によると、同人は昭和四七年度供出米のうち一〇月二〇日に納入した叺入一〇俵が紙袋入りと誤つて記載され、その日のうちに伝票の訂正をしてもらつたこと。

⑥控訴人方では昭和四六年には三〇キロ用の紙袋を農協から購入したことがないこと(当事者間に争いがない)。

⑦〈証拠〉によると、被控訴人組合では、昭和四六年までは供米の搬入受付後直ちに伝票を生産者に手交することをしなかつたが、翌年からこれを交付することに取扱を変更したこと。

以上の事実が認められ右認定に反する証拠はない。

もつとも、前記安部仁と成沢文志の各証言中には搬入後倉庫における米穀を積んだ場所について多少相異する点がみられ、控訴人が農協から紙袋を購入しなくても、組合員相互で叺と紙袋を交換する余地がないわけではなく、前記証人高木富士男の証言によると、倉庫における米穀の入庫、在庫、出庫の際の照合点検は毎日行なわれていることが認められるけれども、右の事情を念頭においても、なお前記の①ないし⑦の事実を併せ考えるとき、昭和四六年一一月一八日控訴人が二郷倉庫に搬入した供米は同人の主張するように全部叺入り五〇俵であつたとの事実を推認するに十分であり、そして〈証拠〉によればその種類、数量価格も控訴人主張のとおりであることを認めることができる。

三そうだとすれば控訴人は同日その主張するとおり種類、数量価格の米穀を搬入引渡して、被控訴人に対しその保管を委託したものというべきであるから、被控訴人において帰責事由の存しないことにつき主張立証をしない本件では(却つて前記認定の事情によると受付係および倉庫係の過失が推認される)被控訴人は控訴人に対しその三九万九三五〇円と二七万六九四〇円との差額一二万二四一〇円を損害金として支払うべき義務がある。

四よつて控訴人の本訴請求を全部正当として認容すべきところ、これと異なる原判決は失当としてこれを取消すべきものとし、民事訴訟法三八六条、九六条、八九条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(畠澤喜一 井上芳郎 合田かつ子)

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